多品種少量生産とは。取り組みが進む分野や例、メリットと課題解決方法を解説
近年の製造業では、顧客ニーズの多様化や競争力強化の必要性などから、多品種少量生産が求められることが増えています。しかし、生産コストの増加や生産管理の複雑化など、多品種少量生産を成功させるには課題も多いのが実情です。この記事では、多品種少量生産の具体例やメリット、課題解決の方法などを解説します。製造業の担当者は、自社の参考にしてください。
多品種少量生産とは、少量ずつさまざまな種類の製品を製造する生産方法
「多品種少量生産」とは、同一工場やライン内で、仕様の異なる多くの製品を少量ずつ製造する生産方法です。単一の製品を数多く生産する「大量生産」とは逆の生産方法で、製品ごとの生産量は少ないものの、多様な種類の製品を生産できることが特徴です。英語では「High-mix Low-volume production」あるいは「High-mix Low-volume Manufacturing」と言い、日本語では「多品種小ロット」と呼ぶこともあります。
一般的に、多品種少量生産には後述するような「コスト高」「管理の複雑さ」などの課題がありますが、多品種少量生産で利益を得られる循環を構築するという考えは、物品販売において販売数が少ない商品を多く揃え、対象顧客を増やして売上総額を増やすという、「ロングテール理論」を実現させる方法です。
多品種少量生産が注目される背景
製造業で多品種少量生産が注目されている主な背景として、「顧客ニーズへの対応」と 「現場作業の自動化」 という2つの側面が挙げられます。
多様化・流動化する顧客ニーズへの対応
顧客(消費者)のニーズは多様化し、流行が移り変わるスピードも早まっています。その一因として、現代ではSNSの利用が一般化し、個々の発信から多様なニーズが顕在化しやすくなりました。そこから次々と流行が生まれ、そして廃れていくという循環ができています。
このような状況では、大量生産という従来の製造スタイルで多くの顧客ニーズを満たすことは困難といえるでしょう。先の需要が読みづらいため、多くの在庫を抱えておくことが企業にとってリスクが高い状況であることも、多品種少量生産が必要とされる理由です。
現場作業のデジタル化による「マス・カスタマイゼーション」
多様化するニーズへの対応が必要に迫られて行う変革である一方、製造現場のデジタル化が進んでいることは、多品種少量生産を後押しする一つの要因となっています。2011年にドイツで提唱された政策「インダストリー4.0(第4次産業革命)」が製造業のデジタル化を推進したことと、企業のDX化は製造業も例外ではありません。
総務省はインダストリー4.0について、平成30年版の情報通信白書で、次のように述べています。
インダストリー4.0の主眼は、スマート工場を中心としたエコシステムの構築である。人間、機械、その他の企業資源が互いに通信することで、各製品がいつ製造されたか、そしてどこに納品されるべきかといった情報を共有し、製造プロセスをより円滑なものにすること、さらに既存のバリューチェーンの変革や新たなビジネスモデルの構築をもたらすことを目的としている。これらの仕組みの整備が進めば、例えば大量生産の仕組みを活用しながらオーダーメードの製品作りを行う「マス・カスタマイゼーション」が実現する。
(出典:総務省「平成30年版 情報通信白書」)
IT技術の活用により、収集したデータをAIが分析して指示を出す、在庫管理を自動化するなど、現場作業の効率化・省人化が進みました。その結果、生産コストが低減し、個々のニーズに対応する受注生産(カスタマイゼーション)をしながら大量生産(マスプロダクション)を継続できる、「マス・カスタマイゼーション」を実現。このマス・カスタマイゼーションへの取り組みが、戦略的な多品種少量生産につながったと考えられます。
多品種少量生産の製品例。どのような製品に取り入れられている?
多品種少量生産はどのような業界や製品に取り入れられているでしょうか。ここでは、製品の具体例を紹介します。
例1:自動車
自動車業界は多品種少量生産が一般的で、例えば自動車業界大手のトヨタ自動車株式会社では、“必要なものを、必要なときに必要な量だけ造る”独自の生産方式「ジャスト・イン・タイム」を採用しています。自動車は、形や性能、デザイン、色、価格帯など、顧客が車に求めるものが多種多様なため、必要に応じて必要な分だけ生産する形態が適しているのです。色や内装、オプションなどを顧客が選べるようにすることで、単なる移動手段ではなく「自分の車」というプレミアムな価値を顧客に提供できます。
例2:アパレル
アパレル業界は、顧客のライフスタイルや好みのファッションが千差万別で、流行の移り変わりが激しいこともあるため、多様なニーズに素早く対応することが求められます。また、同じデザインでも、色違いやサイズ違いで用意する必要があるため、多品種少量生産が適しています。例えば、トレンドのファッションアイテムを少量ずつ生産することで、売れ筋の商品を提供しながら、流行後に過剰在庫となるリスクを軽減します。
例3:食品
食品業界では、見た目や味、アレルギー対応・機能性など、多様なニーズに応えることが売れ行きを左右する業界の一つです。例えばチョコレートを使った製品の場合は、定番のチョコレートだけでなく、クッキーや焼き菓子、飲料などのさまざまな種類があり、消費者の興味を引くには、フレーバーのバリエーションやパッケージデザインなども重要です。「地域限定」や「季節限定商品」「法人向けノベルティ」などに対応できるのも、多品種少量生産ならではといえます。
例4:化粧品
化粧品は、顧客の肌質や年齢などによってニーズが異なるため、幅広く対応できる多品種少量生産が適しています。シーズンごとに新しい製品が販売されるライフサイクルの短さも、多品種少量生産が多くなる理由です。化粧品OEM専門の企業が他社ブランドで生産することの多かった業界ですが、近年は大手メーカーも多品種少量生産に対応するようになり、新工場の建設やシステム開発を行っている企業もあります。
多品種少量生産のメリット
多品種少量生産には、次のようなメリットがあります。
顧客満足度を向上させられる
多品種少量生産は、製品のデザインや機能など、多様な顧客ニーズに対応可能です。製品のバリエーションが多いことで多様なニーズそれぞれに対応できるため、広い範囲の顧客をカバーして、それぞれの顧客満足度を向上できます。
また、顧客が多くの製品から自分のニーズを満たす製品を主体的に選択可能になることで、企業の製品やブランドへの信頼が高まり、継続的な購入を期待できます。
市場の移り変わりに対応し、過剰在庫のリスクを軽減できる
従来の大量生産では、需要予測に基づいて多量の製品を製造していました。しかし、需要が予測を下回ると在庫過多となり、廃棄や処分などのコストが発生します。一方、多品種少量生産は大量の在庫を抱えないため、市場ニーズの移り変わりによるダメージを受けづらいといえます。短期間でニーズを見極めながら必要な量だけを生産するため、急な需要変動にも対応でき、在庫リスクを軽減できます。
企業の競争力を強化できる
商品の選択肢が豊富で幅広いニーズに対応可能なため、自社の強みを伸ばせば顧客に選ばれる企業となり、売り上げや利益の増加にもつながります。また、競合他社が生産していない個性的な製品も取り扱いやすく、新製品の早期市場投入や、競合他社が参入していないニッチ市場の開拓も可能で、競合他社と差別化しやすいと考えられます。
多品種少量生産における3つの課題
多品種少量生産を推進するには、課題をふまえ対策を講じることも不可欠です。ここでは、多品種少量生産の主な課題を紹介します。
生産コストが増加しやすい
さまざまな種類の製品を少量ずつ生産するには、各ニーズに合わせて原材料や工程、ときには生産設備も変える必要があります。大量生産のように製品の型や部品、原材料などが同一でないため、生産コストが増加しやすい傾向です。設計の手間などは生産量が多くても少なくても変わらないため、利益が出づらいといった可能性もあるでしょう。
リードタイムが長く生産効率が下がる
製品ごとに生産プロセスが異なるため、製造に入る準備や検査などの頻度が増加します。その結果、リードタイムが長くなり、生産効率が下がりやすいことも課題です。また、同一ラインを使って製造する場合、製品ごとに生産ラインを止めて段取りを変更する必要があり、生産ラインをフル稼働できないことも、生産効率が低下する要因です。
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生産計画の調整が難しい
生産現場では、それぞれの製造方法や必要なプロセス、納期に合わせて生産計画を立てます。製造する種類が増えると、この組み合わせパターンも多くなるため、管理や調整の手間が増加します。欠品や過剰在庫を防ぐには、需要の変化に迅速に対応することが必要ですが、多品種少量生産の生産計画は煩雑で、調整が難しいことも課題の一つです。
課題を解決するには?多品種少量生産を成功に導く方法
多品種少量生産を推進するには、各課題に対して適切な対策を講じることが必要です。ここでは「受注を分析して生産計画を立てる」「段取り替えを見直す」「AIやIoTによるデータ活用を進める」「生産管理システムを導入する」といった方法を、キッセイコムテックの中尾太郎が解説します。
受注を分析して生産計画の精度を立上げる
多品種少量生産で増えがちな生産コストを抑えるためには、これまでの受注を分析して、精度の高い生産計画を立てることが大切です。製品ごとの受注時期や数量、受注頻度などの情報を分析して、分析結果を基に需要を予測して生産計画を立てていきましょう。
「汎用性が高い原材料は在庫を多めに確保しておく」「受注頻度と数量が多い製品は専用ラインを設ける」など、データに基づき精度の高い生産計画が行えれば、生産ラインの効率的な稼働や、過剰在庫のリスク軽減などにもつながります。
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「段取り替え」を見直してリードタイムを短縮する
多品種少量生産では、製品ごとに生産工程が異なるため、段取り替えの回数が多くなりがちです。「段取り替え」とは、生産ラインに流す製品に合わせて、加工機や冶具・装置の設定を変更する作業のこと。段取り替えの間は製品を生産できないため、段取り替えを効率化すれば、リードタイム短縮に効果が見込めます。次のような工夫を行ってみましょう。
●設備レイアウトや業務フローを改善して、段取り替えの回数を減らす
●同じ工程の製品を、ある程度まとめて生産する
●マニュアルを整備して、段取り替えを誰でもできるように標準化する
●段取り替えを、機械やツールで自動化する
これらの対策を組み合わせて、段取り替えの効率化を図ります。
AIやIoTによるデータ活用を進める
増加するコストや複雑化する生産計画などに対応するには、管理生産工程の最適化や作業方法の改善も必要です。そこで取り入れたいのが、AIやIoTを活用したデータ分析により、業務効率化を目指す方法です。
AI・IoTを取り入れる例として、検査工程にAIを組み込み、これまで人が行ってきた不良品検知を自動化する取り組みがあります。AIにおける画像認識技術を活用することで、このような自動不良品検知が可能となるのです。多品種少量生産で品質検査が複雑化しても、このようにAI技術を取り入れることで、目視検査に必要な人員を削減しつつ、品質の安定化につなげることが可能です。
生産管理システムを導入する
生産計画の複雑化への対応には、生産管理システムを導入して、生産スケジュールや在庫状況などさまざまな情報を一元管理することが有効です。受注情報をリアルタイムで収集するため、過去の受注内容と比較・分析しやすく、分析結果を反映することでより精度の高い需要予測を実現できます。また、在庫や進捗の変化による生産計画の変更を、迅速かつ容易に行うことも可能です。
部門を超えた情報共有が進み、生産管理の属人化を防ぐ効果も期待できます。「製造の優先順位を検討する」「納期を予測して迅速に回答する」など、生産力を高め顧客の意向を反映させやすくしたい場合も、生産管理システムの導入が効果的です。
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多品種少量生産におすすめの生産管理システム「ProAxis」
生産管理システム「ProAxis」は、製造業に特化した統合型システムで、製番BOM(部品表)運用による多品種少量生産に対応しています。生産計画、製造管理、在庫管理、売上管理といった基幹業務を全てカバーし、生産工程を可視化することで、多品種少量生産の非効率な部分を特定しやすく、早期改善が可能です。
在庫状況を可視化するため、安全在庫割れや作業・発注のリードタイム割れをタイムリーに確認できるほか、進捗状況をリアルタイム反映し、納期遅れの予防にも役立ちます。多品種少量生産を含むさまざまな生産方式に対応しており、各企業のニーズに合わせてカスタマイズできるほか、既存のシステムに合わせて構築することも可能です。
ProAxisを導入するメリット
「ProAxis」は、生産の上流から下流までの各工程を一括管理するため、次のようなメリットを得られます。
- 状況をタイムリーに共有できるため、生産計画の修正・変更がスムーズ
- トラブルやボトルネックを早期に発見して、リードタイム短縮を実現
- 部門間での情報共有やコミュニケーションの円滑化
本運用後は、お客様専用の窓口「i-Support」を設置するため、システムにトラブルが発生しても迅速な対応が可能で、安心してご利用いただけます。
生産管理システムだけでなく、基幹業務プラットフォーム全体のご提案も可能です。生産コスト削減やリードタイムの改善など、多品種少量生産の課題解決は、ぜひキッセイコムテックにご相談ください。
「量産」にも「個別受注」にも対応できる生産管理・債権債務管理システム「ProAxis」
多品種少量生産を効率化して、生産性を上げよう
近年、多くの製造業者に求められる多品種少量生産方式は、顧客ニーズに合わせた生産が可能で、顧客満足度の向上や在庫リスクの軽減などのメリットが得られます。しかし一方で、多品種少量生産を成功させるためには、生産コストの増加や、工程の煩雑化などの課題に対応することが必要です。製造業において多面的な情報を一元管理できる生産管理システムは、計画の精度向上やリードタイムの把握と短縮など、課題の把握と対策の立案にも効果的です。自社にあったシステムを導入するなどの対策を講じ、多品種少量生産の効率化を進めましょう。